映画・ALWAYS三丁目の夕日 ノスタルジーと感動の融合

映画『ALWAYS 三丁目の夕日』が大ヒット上映中となっております。特にご年配の方からの支持が高く“泣ける感動映画”として好評を得ています。この作品は漫画家 西岸良平 『三丁目の夕日』を原作としたストーリーで、昭和33年の東京の下町風情を舞台とした物語で夕日町三丁目に暮らす人々の暮らしや昭和の風情を描く人情ドラマです。

ちなみにこの物語は東京タワーのすぐ近く、現在の港区愛宕周辺を舞台としているようで、物語の中で東京タワーは建設中であります。今は大都会ですね。

監督はジュブナイル、リターナーでVFX(Visual Effects)を手掛けた 山崎 貴監督。主な出演者として、 堤真一・吉岡秀隆・薬師丸ひろ子・堀北真希・小雪の面々が演じております。以下からネタバレありです。視聴前の方はご注意ください。

物語のあらすじ

三丁目の商店街で自動車の修理工場を営む鈴木オート。その鈴木オートの主人と家族を中心に商店街の人達との交流やエピソードがメインです。この鈴木オートに集団就職で東北から六子(堀北真希)・通称ロクちゃんがやってきて住み込みで働きます。しかし、このロクちゃん実際は自転車修理しかできないのに、ちょっとした手違いで自動車修理の現場で就職することになってしまい…。

そんな鈴木オートの向かいには駄菓子屋・茶川商店があります。その店を営むのは茶川竜之介(吉岡秀隆)。実はこの茶川は小説家で少年漫画誌に小説を連載しています。駄菓子屋と小説でなんとか生計は立てていますが裕福ではありません。そんな茶川は行きつけのバーでその店の店主・石崎ヒロミ(小雪)から見ず知らずの子供・淳之介を酒に酔った勢いでつい預かってしまいます。そして茶川と淳之介は知らない者同士の2人で暮らすことになってしまうのですが…。

物語の時代背景

まず第一印象として映像がものすごく良い。昭和30年代の高度経済成長期の東京が舞台ですが、その街並の様子が非常によく再現されています…といってもウチが生まれるずっとずっと前のことなのであくまで雰囲気ですが(ぉ)。ロクちゃんが降り立つ上野駅から蒸気機関車、街を走る都電や自動車、建物に至るまで非常に違和感なく描写されています。新横浜にある新横浜ラーメン博物館の館内みたいな感じでしょうか(?)。

昭和30年代当時の流行や出来事、家具や小物なども絶妙に描写されていることからご年輩の方を中心に評価がとてつもなく高いです。そんなノスタルジーだけではなく、商店街の人々との交流の心温まるストーリーや、家族の愛がテーマにもなっておりそんな人情ドラマも感動して泣けると高評価で何度も劇場に足を運ぶ人がいるようです。

各登場人物のキャラクター性や特徴も良く出ていて、音楽(BGM)もストーリーによく合っていて印象に残りました。また学校の社会の授業で出てきた高度経済成長期における家電の三種の神器、白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫も物語に登場します。当時の人が憧れていたこの三種の神器が鈴木オートに揃っている所を見ると鈴木オートは裕福なのかもしれません。白黒テレビが鈴木オートに来る日には商店街のみんなが集まってお祭り騒ぎになるというところも賑やかで楽しいです。

一方で電気冷蔵庫が鈴木オートに来たとき、古い氷をいれる形式の冷蔵庫が捨てられ氷屋の店主(ピエール瀧)が寂しそうな表情をするというようなシーンンも心に残りました。

人間ドラマ

ドタバタしたコミカルなシーンもさることながら、シリアスでドラマチックな場面も多く全体を通してバランスがとてもいいです。後述になりますが映画化するにあたり登場人物像が原作とはかなり大胆に変わっています。また作品のテーマも原作とはちょっと違っています。

中でも特に人とのふれあいを描く演出が目立ちます。商店街の人々との交流のシーン、みんな決して豊かではないけれどもみんなで助け合い、笑いあい、明るく健やかに過ごします。現代はこういう風景も日常もないので羨ましく思うものです。

そして家族との愛を描く描写。ロクちゃんを家族として受け入れて明るく笑う鈴木オートの人々、東北に暮らすロクちゃんの両親と鈴木オート夫婦の想いを描くシーン。茶川先生がヒロミにプロポーズをするシーン。赤の他人でありながらも本当の息子のように叱り、そして淳之介を抱きしめる茶川先生のシーン…などなど涙なくしては語れません。

原作コミックとの違いなど

映画「ALWAYS三丁目の夕日」は、現在も連載中の西岸良平の人気漫画「三丁目の夕日」を原作としています。しかし映画化にあたり、いくつかの点で原作コミックと異なる点があります。いくつか気がついた点を上げておきます。

ロクちゃん

東北から集団就職でやってきて鈴木オートで働く六子ことロクちゃん。映画だと堀北真希演じる女性ですが原作では六郎という男性です。まだ幼い心を持っている青年で、子供の頃遊んでいたおもちゃなどを鈴木オートに詰めて持ってきたりしています。

鈴木オートの主人

映画では堤真一演じる社長。すぐにキレて家の戸を吹っ飛ばして暴れますが、原作では優しいお父さん。ヒステリックに怒ったりはしません。物語の演出上仕方がない設定なのかもしれません。

茶川先生

映画では鈴木オートと親身に付き合いがあり、淳之介との暮らしで親子の絆を描く重要な人物です。原作でも小説家で駄菓子屋を営みますが、ブツブツと小言を言うような暗く性格の悪いおじさんです。途中淳之介といっしょに暮らすようになりイメージがガラリと変わります。原作では鈴木オートの主人とつかみ合いの喧嘩をするような関係性でもキャラクターでもないです。

ストーリー構成

映画は戦後の高度経済成長期でひたむきに生きる商店街の人々の交流やノスタルジー描写が多いですが、原作は基本1話構成で三丁目に住む人々の日常を描く作品で映画のような大規模な構成にはなっていません。映画は原作のエピソードを集め、1つにつなげて構成している…といっていいでしょう。

映画では鈴木オートを中心に描いていますが、原作では鈴木オートとは直接関わりのない住人にスポットが当てられるエピソードも多数収録しています。

映画化やドラマ化など映像化するにあたり、脚本家が一般ウケしやすいようにシナリオを直したり、キャラクターが濃くなるよう脚色したり、売り出したいタレントやアイドルに合うように設定を変えたりするものなので、私自身は気にならないですが原作ファンの中には「原作と違う!」と意見する人もいるでしょう。

昔は良かった…?

今作は感動的なドラマを意識した作りになっていて、主題歌(D-51のALWAYS)やBGMの盛り上げ方やセリフ・演出などが凝っています。原作の雰囲気とはかなり違いますが、原作は原作。映画は映画…と切り分けて見たほうが良さそうです。現代のように便利で豊かではないけれども、昔は人や地域との繋がりがあり、助け合って暮らして来て良かったよね…という雰囲気が全面に出る映画です。

数年前にアニメ映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』が大ヒットしました。こちらも昭和の世界観がテーマで昭和ノスタルジーから家族の愛や子どもが大人を変えていく…というストーリーが描かれており、ALWAYS三丁目の夕日に似たようなニュアンスを感じます。こちらもメインターゲットの児童よりも親御さんが感動で泣く…というものでしたが不況や世界情勢など、メンタルがやつれている現代人にはこういう映画が合うのかもしれませんね。

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